塗装といっても、かなり幅広いです。外壁塗装、木製家具塗装、金物塗装、などなど。ここでは内装工事の主に壁と天井を仕上げる塗装について、綴りたいと思います。施工管理者の目線で少なくとも知っておかないといけない事、知っておくと便利なことを書きます。
塗装工事とは?
下地処理をして塗料を塗る、に尽きるのですが、、、例えば店舗やオフィスの壁や天井の主な仕上げは「クロス貼」か「塗装仕上」のどちらかです。どちらも仕上げ面の下地処理を行い、パテ処理して、「貼る」または「塗る」ですが、塗装の方が下地を拾いやすいため、下地処理の難易度としては、塗装の方が高いといえます。また「調色」を行う事で無限に色を作る事もできます。天井作業や高所の作業も多いため、塗装屋さん=良い足場屋さんとお付き合いあり、塗装工事のための仮設足場も塗装屋さんに一括でお願い出来る事が多いです。またそうする事で塗装屋さんも自分達が作業しやすいように仮設足場の段取りをしてくれます。
塗料の種類
塗料もいろいろなメーカーから、特徴のあるあらゆる塗料が販売されてますが、まずは施工管理として押さえておくべき塗料種類を解説します。設計者に確認するとき、見積に記載するとき、発注する時等、知っておかないと困ります。
アクリルエマルションペイント(AEP)
壁や天井に使用される主な内装用塗料の一つです。普通の塗装壁はほぼ100パーセントこれです。アクリルエマルションペイント(AEP)は扱いが比較的簡単で、有害物質が少なく、ほぼ無臭です。防汚性が高い、シリコンエマルション樹脂を採用した塗料も流通しています。臭気作業が禁止の現場でもこれであれば許される事が多いです。通常「水性」とも呼ばれ、「水性なら良いよ。(油性は臭いからだめだけど。)」という感じで言われます。
油性塗料(OP)オイルペイント
油性塗料は、内装の壁や天井の広い面に使われることは少ないです。とは言え、密着性に優れ、耐久性が高いことから、人がよく触るところや汚れが付きやすい建具や枠などに使用されます。油性塗料は、シンナーのような臭いがあります。時間が経つと、臭いは自然に消えますが、臭気作業が禁止されている場所では少量でも避けるべきです。塗料が乾くまでは人が触らないようにカラーコーン等を立てて、注意喚起しましょう。「水性塗料」はトロトロな感じですが、「油性塗料」はドロドロな感じです。
オイルステイン
木質下地の木目を引き立てるための染色塗料です。木工に関しては別の記事を立てたいと思いますので、ここでは「木工専用の染色塗装もあるのだな。」くらいで。
左官系塗料(左官材)
AEPやOPは基本、単色統一の仕上がりになりますが、左官材や専用の塗料と道具を使用することで、仕上面に風合い/パターン/テクスチャーを付けることで、デザイン性の高い仕上になります。こちらもいつか左官を語りたいと思います。
ツヤもいろいろ
AEP塗装を塗装屋さんに頼む場合、色は間違いなく伝えると思いますが“ツヤ”も忘れず指定しましょう。
事前に塗料をメーカーに頼む場合はまだ(設計者等に)確認時間がある場合が多いですが、現場で調色する場合、現場に行って、職方さんに「何分ツヤ?」とか言われて、「えっ?!」てなって、しかも日曜日とかで、設計者やクライアントに確認できなくて、やっと設計者につながっても新人デザイナーとかだと、「えっ?!ツヤって何ですか?クライアントに確認しないと。。。」とかになって、職方さんも作業進められなくてイライラして、「事前に聞いてよー」とも言えなくて、、、な経験をした施工管理さんは少なくないはずです。笑
つや消し(マット)
つやが全くない塗装です。オフィス等の単なる塗装壁であればマットが多いと思います。
3分ツヤ
つやがありすぎずなさすぎず、品のあるつや感になります。主観ですけどね。デザインエントランスなどで好まれます。
つや有り(10分艶)
表面にかなりの光沢があります。その分、ムラが目立つので、設計さんが採用した場合は覚悟しましょう。※他にも5分ツヤ、7分ツヤがありますが説明不要かと。。
AEP塗る道具
ローラー
広い面を塗る場合は主にこれです。15~20cm幅くらいのローラーでころころします。塗る面の高さや範囲に応じて柄の長さがたくさんあります。
刷毛(ハケ)
ローラーだと塗りにくい場所は刷毛で塗ります。入隅とかせまいところですね。 注意点は面の仕上がりがローラーと変わりますし、職方さんの技量で仕上がりの綺麗さが変わります。高級店舗等の施工管理は注意です。
吹付
塗る面が凹凸の場合や、ローラー目も刷毛目も嫌だ、の場合に採用されます。養生が大変なので普通の壁や天井にはあまり採用しません。
下地の種類
通常PB(プラスターボード)です。これであれば塗装屋さんも問題なく塗装可能です。ケイカル版やベニヤ下地に塗らなければならない場合もありますが、その場合は事前に塗装屋さんに伝えましょう。下地処理の手間や必要な資材が全然変わります。ベニヤにしなければならない場合は、ラワンベニヤでなくシナベニヤにしましょう。塗装屋さんに怒られます。笑
・ラワンベニヤ:表面が粗く下地処理が大変。板材費は安価。
・シナベニヤ :表面が滑らかのため、ほぼそのまま塗れる。板材費はラワンに比べ高価。
下地処理の種類

パテ
下地処理としてまず基本が「パテ処理」です。「パテ」とは、美しい内装を仕上げるために、下地となる壁を平滑にならすための塗料です。通常、下塗り、中塗り、上塗りと全部で3回パテを塗りますが、
それぞれ異なるパテを使用します。粗い下塗り用パテで壁にある穴や大きなへこみを埋めた後、中塗り用パテで表面を平らにし、最後に、細粒の上塗り用パテで壁全体を平滑にならします。
寒冷紗
目地の「乾燥収縮クラック」や、温度変化による「ひび割れ」を防ぐためにパテの補強をするものです。見た目はメッシュテープみたいな感じです。この場合の“目地”とはPBとPBの継ぎ目の事です。パテ処理がしやすいようにPB側に45度のエッジが入っています。(PBの大きさをカットしてエッジが無くなった場合は、 PB屋さんにカッターで目地用のエッジを作ってもらいましょう。)
パテと範囲
・目地塞目地パテ:目地だけに寒冷紗を貼り、目地の廻りだけパテをします。通常の処理です。
・目地塞総パテ:目地だけに寒冷紗を貼り、塗装面全面にパテ処理をします。塗装屋さんがかなり上手でもどうしても目地部分が盛り上がり、色・ツヤ・光、目線の確度により、ムラが見える場合があります。高級店舗等の仕上げに拘る場合は採用しましょう。
・総塞総パテ:全面に寒冷紗、全面パテです。とんでも無い作業ですな。。見たことないですが、下地の状況や目指す仕上げのレベルで採用することもあるそうです。あとはパテ材に防火認定等ある場合とか、、、詳しくわかりません。
注意点や雑学
塗る範囲を明確に指示しましょう。
塗るだけなら後からでも手間少ないですが、下地処理も必要だとパテの乾燥待ちとかでいろいろ面倒です。
下地の精度
例えば同じPB貼りでも1層貼りの場合ビス止めで、2層貼りの場合通常タッカー止めになります。ビスの場合、下塗りパテが必要になりますが、タッカーだと上塗りパテのみで良かったりします。仕上も踏まえたうえで、下地の工法を工夫しましょう。
色合わせ
現場で調色(色をつくること)することも熟練の塗装屋さんなら可能です。既存壁色合わせ等もできますが、古い壁と色合わせする場合は注意です。古い壁は経年劣化で色褪せたり、汚れたりして、合いません。そのような場合はその事をクライアントに事前に伝えて、入隅等の壁の角度がかわるところで見切りましょう。面が変わると光の確度でそもそも色が違って見えるので、それほど目立ちません。同じ面で見切るのはできない、と考えたほうが良いです。
色もいろいろ
詳しくない設計者やクライアントさんは「そこは普通の白で良いです。」と軽く考えますが、白もたくさんありますし、本当の真っ白の塗料は通常使われません。(そのくらい白くて汚れが目立ちます。)
内装壁の「普通の白は日塗工のN-95」と覚えておき、「普通の白」と言われたときは、「N-95で良いですよね?」「一般的な内装壁の白はN-95ですけどそれで良いですか?」と、きちんと握っておきましょう。N-95よりやや暗く汚れが目立ちにくいN-90を好まれるデザイナーもいます。
補修
塗装工事が終了したら、かならず余った塗料をペットボトル等に貰っておきましょう。全体工事工程の後半作業で「ちょっと汚れちゃった。もう塗装屋さん来ない。」の時に、筆やウエスがあれば簡単に補修ができます。(そのことをタッチアップと言います。)その際は養生を忘れずに。思わぬ2次災害に見舞われます。内装の施工管理は塗装屋さん、補修屋さんの次に塗装が上手くなります。
臭気と換気
OPやシンナーを大量に使う場合は、換気を行える環境を整えましょう。窓が近くに無い場合は送風機等を使用し、臭気を外気に送り出す等の工夫が必要です。どんなに普段シンナー等の扱いに慣れている職人さんでも、倒れてしまう事があります。昔の先輩の現場で、本当に職人さんがらりってしまって、ふらふらになり、わけもわからず養生もぐちゃぐちゃにしてしまい、塗料もまき散らしてしまい、悲惨な現場があったようです。。。
色見本
塗装や印刷紙等の様々な色を扱う業界では色見本帳というものがあります。以下のものは良く出てきますので、知っておきましょう。
日塗工
「にっと(う)こう」と読みます。(一社)日本塗料工業会の略で日本ではこれが主流です。持ち歩きやすく、対象物に当てやすいように工夫されていますので、できれば一つ持っていると良いです。現場調査に行った際、色を確認したいときに便利です。間違っても写真で合わせる事は避けて下さい。

DIC
「ディック」と読みます。大日本インキ化学工業、、と思ったらかなり前に会社名変わっていました。。。塗料や印刷用の色見本です。但し、印刷用見本の色は塗装色になりにくいので指定された際は注意です。
PANTENE
「パントーン」と読みます。印刷物や工業製品で使用されています。塗装工事用の塗料ではないのに、なぜかこれで指定してくるデザイナーが結構多いです。なんとなくカッコ良いのか、広告代理店等の仕事で印刷系を扱う事が多いのか、、、パントーンで塗装屋さんに指示すると十中八九「色出ねぇんだよなー」と返ってきます。合わせざるを得ない場合はしょうがないですが、日塗工で指示を貰いましょう。避けられない場合は塗装屋さんに色サンプルを作成してもらい、事前に設計者やクライアントに確認しましょう。
まとめ
塗装工事は、塗る面の下地の管理から、作業中の管理、仕上がりまで関連する要素が非常に多く、奥深く、良く知っておかないと、いろいろな観点でのリスクがあります。一般的なオフィス工事の塗装であればある程度、塗装屋さん任せで良いのですが、デザインの凝った店舗等は段取りをする施工管理者がよくわかっていないと、現場の職人さんにもクライアントさんにも迷惑をかける事になり、工期やコストのリスクにもつながりますので、ただ塗るだけだと思わずによくよく学びましょう。塗装工事の施工管理経験さえ積めば、クロス貼りや塩ビシート張り等の管理に応用が利きます。