内装の施工管理に携わる人によっては“電気工事は苦手”“電気屋さんにお任せ”という方も多いのではないかと思います。私もその中の一人ではありましたが、内装監理室業務やビルの管理に関わるようになって、そうも言っていられなくなってしまい、多くの電気技術者と協業し、また自己学習することで知見を得ました。電気設備や電気工事の多くの書籍やブログはありますが、“内装管理者のための程よい電気工事”に絞って調べようとするかなり大変です。そこで内装管理者が最低限必要であろう知識に絞ってなるべく簡単に解説したいと思います。この“前編”でおおざっくり“建物全体”と“電気の概要”を掴んで下さい。“後編”でもう少し深掘りしたり、内装工事に関連した内容を解説します。注意点としましては、専門家から見ると「用語が適切に使われていない」「厳密にはそうではない」という点も何点か出てくると思いますが、イメージをわかりやすく伝えるために平易な単語を選んでる場合もありますのでご了承くださいませ。
建物の受電
まず建物電気設備の構成の全体像を解説します。
電力会社から建物の「受電室」で高圧電力を引き込み、「変電室」で電圧を下げて、「配電盤」で建物全体に適切に電力を分配して、「幹線設備」で送電して、各テナントの「動力盤・分電盤」で一旦受けて、「スイッチ・コンセント」に電気を送り、照明や電気製品が利用できる、
という流れです。次に各「」項目について解説します。

受電設備
電力会社から建物へ電気を受け入れる設備です。電力会社の配電線から高圧電気を受け取って、変電設備に流します。高圧(6.6kv)とか特別高圧(22kV以上)とかあります。
変電室・配電盤
高圧の電気を適切な電圧に変換し、各設備へ分配する設備です。変圧器はトランスとも呼ばれます。先程の高圧6.6kVを200V/100V などに変換します。
キュービクル
受電と変圧と配電を一体化した金属製の箱に納めたものです。屋内屋外どちらでも設置できます。商業施設や工場、オフィスビル、病院や学校など様々な建物で使われており、主に駐車場や屋上に設置されています。
自家発電設備・蓄電池設備
停電時の非常用電源を供給します。文字通りですが、自家発電するための発電能力のある設備と電気を蓄える設備です。そのような設備がありますので後述する「非常用回路」でテナントに電気を供給したり、非常用照明を点灯したりすることができます。
幹線設備
配電盤から分電盤や動力盤まで電力を供給するケーブルです。(ケーブルの他に“バスダクト”という部材もあります。)
分電盤・動力盤
幹線で配電された電気を受け取り、スイッチやコンセントに回路分けする基盤です。電気を安全に使用するために必要な漏電遮断器や配線遮断器が一つの箱にまとまっています。電力量計や制御リレー、照明を制御するリモコン制御ユニットを組み込んだものもあります。動力盤は分電盤の一種で、動力用の盤です。
スイッチ・コンセント
スイッチは電流を止めたり流したりする装置です。コンセントは電気を取るために壁などに設けるプラグの差込み口です。
電気設備の種類
建物内の電気設備は一般的に「強電系」「弱電系」「防災系」の3つに分類され、それぞれ役割や扱う電圧、用途が異なります。以下にそれぞれの概要をわかりやすく解説します。
強電系
概要・役割
強電とは、主に動力や照明など電力を供給するための電気設備を指します。
主な役割
・照明やコンセントへの電力供給
・空調・エレベーター・ポンプなどの動力源の供給
・分電盤や配電盤による電力の分配と制御
該当する設備例
・高圧受変電設備(キュービクル)
・分電盤・配電盤
・照明設備(蛍光灯・LED等)
・コンセント
・動力設備(空調機・換気扇・エレベーター・ポンプなど)
弱電系
概要・役割
弱電とは、通信や情報処理に関わる低電圧の電気を扱う設備です。人が直接触れても危険性が低く、データや信号のやり取りに使われます。
主な役割
・通信・ネットワーク環境の構築
・放送や監視、アクセス管理などの制御
・情報の伝達と共有のインフラを担う
該当する設備例
・LAN設備(インターネット回線)
・電話設備(内線・外線)
・テレビ共聴設備(地デジ・BS/CS)
・インターホン・ナースコール
・防犯カメラ(CCTV)
・入退室管理システム(ICカード・顔認証など)
防災系
概要・役割
防災系は、火災や災害発生時の人命保護や建物の安全確保のための設備です。火災を検知し、警報・誘導・通報などの動作を行います。
主な役割
・火災の早期発見と警報の発信
・避難誘導・放送
・消防署などへの自動通報
・非常時の設備制御(扉の開放、空調停止など)
該当する設備例
・自動火災報知設備(感知器・発信機・受信機)
・非常放送設備(スピーカー・マイク)
・誘導灯・非常灯
・消火設備(スプリンクラー・ガス消火)
・防排煙設備
・非常用電源(自家発電設備・蓄電池)
補足:3つの系統の関係性
これら3つの系統はそれぞれ独立しているようでいて、相互に連携する場面も多くあります。たとえば、防災系の設備に強電の電力供給が必要であったり、弱電設備(ネットワーク)を使って防犯カメラや通報システムが作動したりします。
ここまでで建物全体の電気設備概要とます。後編ではそれぞれの用語の解説やもう少し深堀した解説をします。